「で、これがカリ梅でさァ」
「まあ、これが…小梅を大きくしたみたい」
「酢昆布に負けず劣らず、マニアなファンをそれでも手堅くゲットしてやす」
「へえ……」
「えーと次は…」
「……何してんだ総悟」
「あ、土方さん」
「まあ、いらしたのですか土方さま。」
「…、…そよ様……」
お願いだからこいつは無視して下さい。
と、心の中で呟く。
『プレゼント・ストライフ』 CAST:Hizikata,Okita,Soyo.
「土方さんも喰いやすかィ、さっちゃんイカ。俺ァ嫌いですがいけますぜ」
「嫌いなくせになんでいけるとか言ってんだてめェ!!ていうかなんだこの駄菓子の山!!」
「そよ様ご所望の品々でさァ」
「…何?」
「すみません土方さま、でもどうしても欲しくて…沖田さまに、無理を承知でお願いしたのです」
いつもの如くのうのうとのたまう沖田と本気で申し訳無さそうなそよ姫とが対照的すぎていっそ笑える。ため息が出た。俺はこいつらの為にあと何度ため息をついたら済むのだろう。
「…で、お前はマジで買ってきたわけだ、頼みを聞いて。」
「男に二言はありやせん、それにどうせ組の金だし」
「オイィィ!!経費で落とす気か、この駄菓子!?」
「俺の給料から出すんですから、元は組の金でしょー」
それに姫さまが嬉しそうだから良いじゃないですかィ。そう結ばれては、土方も言葉を継げない。代わりにまたため息。
「…今回だけだぞ、見逃すのは」
「ありがとーごぜぇやす。んじゃそよ様、続きですぜィ」
「はい!」
そう言った彼女は確かに本当に嬉しそうで、ずっと深く眉間に皺を寄せていた土方もふっと微笑った。すぐに煙草を取り出しかけてそして城内は禁煙なのを思い出して、また皺は戻ってしまったけど。
縁側に広げた駄菓子の山を、沖田もようやく一通り説明し終えたらしい。姫はしげしげと興味深げに見つめ、一つ一つ手に取ったり口に入れたりしている。そして、比較的大きな箱にふと手を止めた。
「…これ、何が入っているかしら」
「え?」
立って待っているのも馬鹿らしくなって隣に腰を下ろしていた土方も、沖田と一緒に姫の持っているその箱をじっと見る。ああ・と沖田が声を上げた。
「おもちゃの指輪やらペンダントやらがランダムでおまけに付いてる奴ですねィ」
「…お前、こんなのまで買ってきてたのか……」
「駄菓子コーナーに置かれてたやつでパッと見た感じ良いもんは、大体持ってきやしたから」
「これ…良いのか?」
「ピンク色でぴかぴかしてて、女の子にはぴったりじゃ無ぇですかィ」
ここで“お姫さま”でなく“女の子”と言う辺り、沖田は案外気が利くのだ・と時々気付く。
「気になるなら開けりゃ良いんでさァ」
「…そうですね。確かに、そうですわ」
沖田に言われてやっと箱の封を破り始める。多分まだ彼女なりに遠慮していたのだろう。ぼんやりそんなふうに考察しながら、小さな白い手がピンク色の包装をぱりりと破るのをなんとはなしに眺めている。やっぱり煙草が恋しい。
「まあ、可愛い」
出てきたアクセサリーを一目見て、姫は顔を綻ばせた。微かに上気した頬が幼さを際立たせる。悪戯に豪華な着物が、妙に浮いて似合わない気がした。もっと素朴な衣装で良いのに・そう思ったけれど余計なことだと気付いてなんだか頭を叩きたくなってくる。
アクセサリーは星の首飾りだった。小さな淡い紅色の星と水色の星。銀の鎖。
「菓子のおまけにしちゃ、わりと良いシュミですねィ。」
もっと大きな安っぽいガラス玉のついたのを想像してやした、と言う沖田に同意する。これならそう幼い子供でなくても身に着けたっておかしくは無い。
「良かったですねィ、“当たり”ですぜコレ」
そう言って笑う沖田に、ええ・とまた笑みを零す。だが、姫は首飾りをすいと沖田に差し出した。珍しく沖田も目を丸くする。
「…なんですかィ?」
「これ、あげたいんです」
「……俺に?」
「いいえ。神楽ちゃんに…」
はっとし、改めて姫を見た。彼女はいつも通り、いや、いつもよりも柔らかく、微笑っている。
「きっと神楽ちゃんなら似合います」
そう言ってとても嬉しそうに笑うそよ様を少し見つめた後、沖田はいつものようににやりと笑って首飾りを受け取った。
「承知しやした」
俺は黙ってそれを眺めながら、見ないふりをしている。
すっかり日も暮れて、警護任務交代の時間になった。それなりに名残惜しそうに、沖田も腰を上げる。姫も立つ。駄菓子は半分ほどが空になっていた。
「では、また明日護衛に参ります。…今度はもう遊びませんからね」
「えーっ」
「てめえが文句言うんじゃねえよ、総悟っ!」
「痛て」
拳骨を喰らわしてもへらへら微笑う。一体どうしたらこいつが泣くのか知りたい。
「…では、私もこれで」
背中を叩くように押して沖田を出口に向かわせ、一応再度振り向いて姫に挨拶。すると彼女は何か思いついたように目を丸くして、それから「少しお待ち下さい」と言うが早いが慌てたように菓子の山をごそごそと探り出した。
「…?そよ様、どうし」
「あ、あった!」
また嬉しそうな顔をしている。一体何を見つけたのか、そしてどうして俺を待たせるのか。もしかしてまだあのチャイナ娘に何かことづけたいのだろうか?
軽く首を傾げていると、とたとたとこちらへ早足で歩いてきた。着物が重そうで、言ってくれればこちらから行くのに・と少し思う。
「どうかしたのですか、そよ様。」
「これ」
「?何…」
ですか・まで言う前に、何かが口の中に入った。ぎょっとして出そうとしかけたが、すぐにふわりと広がった甘さで思い留まる。甘いものが苦手でほとんど口にしない彼にとっては、久々に嗅ぐ甘い香り。
「……チョコ、レート?」
「さっきの首飾りの箱に入っていたのです」
ふふ、と笑いながら残りの入った小さな袋を俺に見せる。言われて思い出した、あれはあくまで食玩でありあくまで小物は『おまけ』であり必ず中には菓子もあるのだ。と。
そしてこの場合のそれは細いスティック型のチョコレートだったらしい。
「土方さま、煙草をお吸いになるのでしょう」
「…はい」
やっぱ臭いでバレるわな・と心中思う。一応姫の前では吸ったことは無いはず・だけれど。
「今日も、時々口寂しそうにしておられたので」
「……そうですか」
臭いなんぞなくてもバレてたのかよ
「これ、形が似ていませんか?」
ほんの少ししか無いけれど、色んなことの、お礼に。
そう言って、貴女はまるで子供に駄賃でもやるかのようにそっと俺に甘い菓子の袋を渡す。
軽いはずだけど少し重い気がした、俺はらしくもなく小さな声でやっと「ありがとうございます」とだけ言った。
ほんとうはまだ何か言いたい気がしてでも言えなくて、喉が詰まっていたのだけれど。
「そよ様になんかもらったんですかィ」
「…俺、そんなに煙草欲しそうな顔してたか?」
「顔はどうだか知りやせんが、手が時々ライターだか煙草だかを取ろうとしてポケットに動きかけるのは見やしたぜ」
「……そうか」
「なんだ、それで煙草の代わりにってスティックチョコもらったんですかィ」
「お前、分かってんだったら訊くなよ」
「土方さんなら面白可笑しく反応してくれるかなって期待してたんでさァ」
「……」
「良かったですねィ。」
「…あ?」
「お城に居る間の、煙草の代わりが出来たじゃねぇですかィ」
「…甘いもんは苦手だ。大体、真撰組の副長が始終チョコレート頬張ってたりしたら、組の威信に関わるだろ」
「きっと皆が親しみ深いって喜びまさァ」
「馬鹿、副長が親しみ深くってどうする」
「親しみ深くても深くなくても、みんなはやっぱり土方さんが恐いしやっぱり土方さんが好きだと思いやすぜ」
「……好きだと?」
「それに、丁度良いじゃねぇですかィ。あの菓子定期購入始めれば、そよ様の好くような首飾りやら指輪やらなんやらが面白いように貯まりまさァ」
「おいちょっと待て、チョコってあの菓子限定なのかよ!?しかもなんで俺がそよ様に菓子のおまけ献上すんの決定なんだオイ!!」
「当たり前じゃねぇですかィ。そうじゃなきゃ面白くならな」
「なんだとコラ」
「まあそれは置いといて、」
「置いとくのかよ」
「これ、土方さんが渡して下せェ」
「…あ?」
怪訝な面持ちで疑問符を出すのと同じくらいに、沖田がぽいと何かを投げた。咄嗟に掴んでしまったそれは、確か昼間に姫が沖田へ託した首飾り。僅かな西日に鈍く煌めく。
「…って、ちょっ、おいっ!!なんで俺が渡すんだよ、お前だろ頼まれたの!?」
「イヤ、それがまずいんでさァ。俺良く考えたらあのチャイナ娘に会うといつの間にか喧嘩になるんだもの、いつも。それ持って行ったって、顔見た瞬間に忘れて派手な戦闘の末に失くしちまうかぶっ壊しちまうかのどっちかでさァ」
「……」
「なんか冗談に聞こえねぇ・とか思ってるでしょ。だって冗談じゃないもんよー」
「………」
「ま、そんな訳で宜しくお願いしまさァ。」
「いや、待てっ!!だからってお前ッ……」
「俺ァこれから山崎とミントンするんでさァ…それじゃ土方さん、御機嫌よう」
「ミントンだと!?ちょっと待て、お前そんな趣味無かっただろが!おい!!オイィィ!!」
土方の必死の叫びは空しく空に消え、沖田はすたすたと歩き去りやがて通りの向こうに消えた。あとには立ち尽くす土方と銀色の首飾りと、ポケットに未だ有る甘いチョコレート。
俺にどうしろってんだ、畜生!
腹立たしげに独りそう吐き捨てると、煙草を吸うべくポケットを探った。が、思いのほか大きかったチョコレートの袋にそれをはばまれた。勢い取り出してしまったそれを、少し見つめる。あの人の笑顔が重なる。
しばし逡巡した後、ぽりんと土方はそれを噛み砕いた。
安っぽい甘さはそれでもどこか優しくふわりと広がり、ため息をつきつつ彼もしばらく煙草は忘れることにする。
----------End.
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
沖田を書くのが一番楽しい…(笑) でも原作のあの毒舌の再現は出来ない。頑張るぞー(そんなん頑張るのか)
アクセサリー付きチョコレートは小さい頃私がよく買ってもらったものです。光り物大好き(カラス?)だったので…保育園ぐらいの時は細長いケースでばかでっかい安っぽいやつばかりだったけど、小学生ぐらいの時に久々に食玩コーナー見てみたら四角い大き目の箱になってて見本もだいぶ可愛らしいデザインが増えてて吃驚。小さい頃のやつなんか金色のハトの腹に赤いガラス玉だったのに…(笑)
しかし無理矢理だな…煙草の代わりに棒状チョコって、そりゃ無理だろう(ぉ) と、思いつつも土方にどぎまぎして欲しかったのでそよ様(無理矢理)はいあーん、です(違)
タイトルは一応「プレゼント騒動」と訳したい…(希望かよ) 「お家騒動」が「Family
strife」だというので勝手に変換しました(ぇ) 多分読み方「ストライフ」だと思うんだけど…違ったらスルーして下さい(ぁ)
そろそろ土神書きたい……これの続編で首飾り渡すところでも書こうかしら(ネタ手抜き)